フォトライティングツアー作品集

テーマ:若狭塗箸と伝統工芸士に出会う旅(11月11日)

小浜に箸づくりの若き担い手を訪ねる

~大阪府在住 H.Tさん~ 

 

 象の形をした福井県。細長い鼻のまさに中腹に位置する福井県小浜市に株式会社マツ勘4代目松本啓典氏を訪ねた。中学時代は陸上チャンピオン、その後も選手として、順天堂大学、自衛隊へと渡るという異色の経歴を持つ若き経営者だ。

 「デザインが非常に大切だと思います。商品であるモノのデザインはもちろん、企業としてのあり方こそ、デザインしていきたい。資源である木材のことから、製造過程で廃棄される端材に至るまで、全てにおいて企業としての責任を持ちたい。社内には端材を資源としたペレットストーブを設置しました。」とまっすぐに語る。

 その話は、日本の漆塗り、重箱や花見御膳などといった若狭漆漆器の歴史から始まり、今まさに4代目として感じる、箸づくりの企業としての危機感にまで及んだ。

 「小さな企業の取り組みだが、いずれは地域や行政を牽引していきたい」と彼は言う。熱く、まっすぐな想いを聞いて、この海辺の小さな町で、彼のような若き経営者と出会えたことが、本当に嬉しくなった。小浜のまちとともに、この小さな箸づくりの会社が語られる、そんな未来が来て欲しい。「共に良いプロジェクトを作りましょう」偶然の出会いに意気投合し、固い握手を交わした。

父の職人姿は、いつまでも見ていたい

~福井県在住 K.Iさん~

 

 私の実家は表具屋である。父は、2代目だ。工場は家の中にあり、いつも廊下には、障子が並んでいた。小さい時は廊下で走って遊ぶと怒られた。玄関を開けると、糊のにおいから始まり、どかっと仕事場で座っている父の姿があった。

 古井さんの工場も、家の中にあった。玄関を開けると、漆のにおいがすぐにきた。今日は会えなかったが、夫婦二人でいつも作業をしているとのこと。まずは、古井さんが漆を塗り、次に奥さんが卵殻や貝殻を貼り付けていく。夫婦二人が揃わないと完成しない箸であり、まさに箸1膳、2本、2人揃わないと完成しない古井さんの箸。

 父よりも5歳上の古井さん。漆を塗っている時が身体の調子がいいとのこと。奥様は、古井さんの技を目で盗み、時には古井さんの指導の下、職人になったらしい。そんなご夫婦に私は自分の両親を重ねて見てしまった。

 私の母も父の仕事を手伝い、一緒に障子の張替えをしている。夫婦2人が揃わないと障子の張替えは出来ない。また、古井さんのところも、子供がいなく跡継ぎがいないと言っていた。うちも、兄は外に出てしまい、表具屋は父の代で終わってしまう。

 何かと両親と重ねて古井さんを見てしまい、あまりインタビューが出来なかったものの、今日の出来事で一番書きたくなったのが古井さんのことだった。

「ずっと見ていたいですね!」「音が心地いいですね」と口々に皆が言ったとき、たんたんと箸を塗り、淡々と答えてくれていた古井さんが今日一番の笑顔で、「それを言ってもらえるのが嬉しい。昔、親方に、それを言われたら一人前の職人だと言われたんだ」と、顔は上げず職人らしい笑顔で話してくれた。

今日、私は父に、「お父さんの仕事姿は、いつまでも見ていたいね」と、素直に伝えてみようと思った。

箸と恥

~福井県在住 Y.Nさん~

 

 27年を生きてきたが、恥ずかしいことに箸を上手く持てたことがない。「口に入れば同じこと」と幼少より気に留めまいとしてきたが、3歳の甥っ子が箸の持ち方を矯正されている姿を見て、自分の育ちの悪さをいよいよ認めざる負えなくなってきた。そういうこともあって、もともと箸に対して劣等感を感じていた。

 劣等感を感じていることが、もう1つある。文系出身のくせに、物書きが下手なことだ。テーマに劣等感を感じているにも関わらず、もう1つの劣等感を克服することが、このツアーに参加した理由だ。本日11月11日は、箸国際学術シンポジウムが定める箸の日のようである。奇妙な因縁を感じた。

 文系出身だが、生産の現場を見るのは実に楽しい。トントンと箸を揃えて、シュッシュッと漆を塗っていく古井さんの仕事ぶりは、リズムを生み出す音楽家のようであり、寸分狂わぬ機械のようでもあった。年季を感じさせる仕事道具は、漆が何層にも重なっていて独特の模様を映し出すアート作品であった。芸術もからっきしだったが、漆・貝殻・卵殻の生み出す模様は、松本さんから聞いていた通り若狭湾の海底を彷彿させた。仕事ぶりの美しさが、作品の美しさにも影響しているのだろう。

 生産の現場に触れ、生産者の話を聴く中で、劣等感を感じていた箸に少し愛着を感じるようになった、そんな1日だった。

西津を訪れて

~小浜市在住 A.Iさん~

 

「箸作りは『どこまで辛抱できるか』。じっと座り続けることができれば誰でもできる」

 そう語る古井さんは、中学を出てすぐに若狭塗の道に入った。小浜市西津地区の一軒家、ともすれば見落としてしまいそうな小さな看板のかかった工房で、一日千二百膳を塗る。片手で箸をつかみ、扇のように広げては転がしながら刷毛で塗っていく。一度に扱う箸は十四、五本。数えなくても既に手が覚えているという。いかにも無造作に見える作業だが、片手で箸を扱うことのできる塗師は少なく小浜では古井さんくらいだという。「指が汚れないのはいい職人の証」と師匠に言われた言葉そのまま、一切指を汚すことなく淡々と箸を塗り上げていく。朝八時から夕方六時まで三百六十五日工房に座り続ける。箸さえ作っていれば機嫌がいい、箸から離れると体調が悪くなるという。箸作りが日常なのだ。

 工房を出て西津地区の路地を歩くと、そこかしこに小綺麗なお堂を見つけることができる。中には目を惹く原色の化粧が施された地蔵が祀られている。この地区には「地蔵盆」という一風変わった祭りがあって、地区の子どもたちは地蔵を清めて化粧をするだけでなく、賽銭箱を持って賽銭を集め、集計し、なんと0歳児から中学二年生まで全ての子どもに分配するという。その按分も大将と呼ばれる一番年上の子どもたちが決定する。すべて子どもたち自身で運営する祭りなのだ。

 ゆえにお地蔵様は、地域にとって忘れられた存在ではない。お供えのお花やお茶はどれも新しい。帰り道に喉が渇いたらそのお茶を飲む小学生もいたというくらいだ。

 西津地区を訪れて感じたのは、伝統は決して日常から切り離されたものではないということだ。若狭塗は室町時代から工芸品の装飾として発展したが、明治初期に箸づくりへ転換し、箸という欠かせない日用品と結びつくことで地域の産業として生き残った。今でも若狭の箸は全国シェアの八割を占める。それを支えているのは箸作りを日常とする職人たちだ。

 そして西津の地蔵もまた祭りのためだけの存在ではなく、地域の人々の生活に自然に寄り添っている。古くからあるものが当たり前のように今もなお息づいている。それはどこにでも見られる光景ではない。道を歩き自分の目で見ることで、この地区の魅力を肌で感じた。

お箸の価値とは

~小浜市在住 Y.Mさん~

 

 一般消費者はお箸をどんな基準で選び購入するだろうか。値段、デザイン、それともブランドなのか。いろいろな選択の方法があるが、お箸一膳に5000円払う消費者はどれほどいるだろうか。恐らく、そう多くはない筈だ。

 本日、私は伝統工芸士の古井さんの職場に伺い、目の前でプロの“技”を拝見した。非常に簡単そうに、次々とお箸が綺麗な朱色に塗りあげられていく。その光景は、芸術と言っても過言ではないほど美しく、いつまでも眺めていたい。そんな気持ちにさせてくれる時間であった。

 聞いたところによると一か月間をかけて14~15回も、この漆を塗り重ねていく作業を行っていくとのこと。非常に手間暇のかかる作業だ。一膳のお箸が塗り上がるまでに約一ヶ月、そこから更に手が加わり完成までに二か月はかかるであろう、一膳のお箸。それが一膳5000円で売られているお箸だ。あまりに安い値段ではないだろうか。

 職人志望の後継者がいないというお話も伺った。今5000円で手に入る古井さんのお箸は古井さんが引退後、二度と手に入らないものとなってしまうのだ。

 お箸の価値を理解している消費者は決して多くはないが、今日のようなツアーに参加し、作り手の想いや技術を目の当たりにすることによって大きく箸に対する価値観というものが変わるはずだ。実際、箸の業界に入って二年目の私ですら、職人の生の声を聞くことによって考えさせられることが多かった。身近にあって当たり前に存在するお箸だが、それはなくてはならない大切な価値のある暮らしの道具だということを伝えていきたい。

テーマ:へしこ・なれずしを守る地域の暮らし(12月17日)

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