フォトライティングツアー作品集

テーマ:へしこ・なれずしを守る地域の暮らし(2017/12/17)

発酵する暮らし ~長浜市在住 J.Tさん~

 鯖街道の起点として知られる福井県小浜市。小浜市は名水百選認定を3つ保有するなど良質な水がある。ゴツゴツした岩場が特徴的な大きな若狭湾は内側に小浜湾を含む10ほどの湾を保持する。西は日本三景で知られる天橋立や日本三大松原の気比の松原を含む10ほどのリアス式海岸でできている。ミネラルを含んだ水と多様な生物の住処がある。小浜の魚がおいしい理由だ。

 鯖街道は若狭国などの小浜藩領内と京都を結ぶ街道の名前である。鯖を中心とした魚介類を京都に運ぶ物流ルートであった。歴史は約1300年前の奈良時代にさかのぼる。約70キロある道を1日かけて行商人が徒歩で運んだ。そのため魚介類を腐らさずに運ぶ方法が必要であった。

 そうした需要に応えるために、鯖の「へしこ」などの発酵技術が生まれた。へしこの作り方はまず鯖をさばいて塩漬けにする。次に塩漬けした鯖をぬか漬けにする。あとは微生物に任せて一年間熟成させれば完成である。発酵が進むのは5月から8月までの期間であるという。発酵力の根源は他ならぬ小浜の気候だ。「私はもっと酸っぱい方がいい」「うちはこれくらいや」といった言い合いができるほどその発酵の文化は今も家庭の暮らしに寄り添う。老いるのではなく発酵する。小浜は暮らしも食も熟成されている。


鯖のなれずしを守る ~小浜市在住:J.Bさん~

 初雪の降る頃、食の世界遺産と云われるイタリアに本部のあるスローフード協会認定『味の方舟』に掲載された鯖のなれずしを見学に行った。

 鯖のなれずしの作り手である森下佐彦(もりしたさひこ)さんは、福井県小浜市田烏(たがらす)地区で佐助という宿を経営している。

 

 「雪の降る中、ようおいでくださったなあ。なれずし、うまいじゃろう?」

 森下さんは屈託のない笑顔で出迎えてくれた。

 「私らが子供のころ、冬の蛋白源はへしことなれずしやからね。当たり前のように食べているんや」

 鯖のなれずしは、『味の方舟』に掲載されたとはいえ、琵琶湖の鮒すしほどの知名度はない。そもそもなれずしの作り手が断然少ない。

 

 鯖のなれずしは作るのに時間がかかる。

 まず、一年かけて伝統保存食であるへしこ、鯖の糠漬けを作る。へしこは鯖を五日間塩漬けにし、塩で水分を抜いた鯖を糠に漬けこみ、重しをして一年熟成させる。

 鯖のなれずしは、出来上がったへしこを水洗いし、塩抜き皮を剥いだ鯖に飯と麹を混ぜ、また漬け込む。手間と時間を存分にかけて作られるのだ。

 

 先人の教え通りに、丹精込め作られた鯖のなれずしは、青魚のうまみが糠と飯麹、二種の発酵を経て熟成され、ただひたすらに美味い。鮒すしが苦手な私でも箸が進む。

 

作り手の後継者はいるのだろうか?

「うちの娘が、この味だけは引き継ぐと、毎年漬けに帰ってくるんや」

 

地域の人の暮らしと先人の知恵が、鯖のなれずしを守っている。


新しい鯖、伝統の鯖  ~小浜市在住 A.Iさん~

 「おはよう、餌あげるよ、大きくなれよー、と毎朝声をかけながら餌やりをしています」と語ってくれたのは、小浜市田烏地区で漁師と民宿を営む浜家直澄さんだ。

 小浜市が若狭湾で鯖の養殖を始めて2年目。流通の発達する以前から、若狭湾でとれた鯖を京都へ運んでいた「鯖街道」の起点の町だ。鯖は傷みやすく寄生虫リスクの高い魚だが、養殖することでより新鮮、安全な鯖を刺身として提供することが可能になった。

 「声かけをすることで鯖にも愛情が湧く。初めての出荷の時は胸にグッとくるものがあった」という浜家さん。「新鮮な鯖のお刺身は臭みがなく本当に美味しく、今までは漁師のご馳走だったが、これからは小浜の名物になってくれれば」と笑顔で語ってくれた。

 小浜と鯖の歴史は古い。伝統食のひとつに「へしこ」がある。これは鯖に塩と糠をまぶし樽で重石をして漬け込み、夏の暑さと冬の寒さに晒して1年をかけて熟成させたものだ。生ハムのように鯖の旨みが凝縮されている。さらに田烏地区の伝統食として、へしこをほどよく塩抜きして、麹と米を混ぜたものと2週間漬け込んだ「鯖のなれずし」がある。一本の鯖のへしこに麹の雪化粧が美しい、手間暇かけた保存食だ。田烏地区の民宿「佐助」ではこのなれずしを自家製の米と、その米から作る麹を使って手作りをして提供している。「鯖の刺身に加えて、へしこやなれずしという伝統食も小浜の名物として楽しんでほしい」と「佐助」主人の森下さんは語る。

 

 小浜の鯖をめぐる豊かな食文化をたくさんの人に届けたい、そう語るお二人の笑顔が印象的だった。


日本酒好きの肴探訪 へしこのなれずしを食べに福井県小浜へ

~京都市在住 Y.Mさん~

 旅の目的は、“へしこのなれずしを食べてみたい”という日本酒好きのわたしの好奇心からだった。

へしこのなれずしとは、塩漬け、糠漬けをした鯖を1年熟成させ「へしこ」にする。そこから塩抜きをし、なれずしにしたものをいう。手間と時間のかかる郷土料理だ。これを食べるために訪れた福井県小浜市は、鯖街道の起点と言われ、今も伝統的な手法でへしこのなれずしをつくっている。

 

 若狭湾に面した小浜市の“田烏(たがらす)”で「民宿 佐助」を営む森下左彦さんは、伝統的なへしこのなれずし作りを守っている方だ。へしこのなれずしを食べながら、できるまでの工程を紙芝居のようにして丁寧に教えてくれるとても気さくな方だった。

 

 左彦さんがつくったへしこのなれずしは、ほどよいへしこの塩気が、米の甘みがまろやかで何切れでもぱくぱくいける。間違いなく熱燗が飲みたくなる逸品だ。想像していたフナのような生臭さやくせがなく食べやすかったことにも驚いた。日本酒好きな方にぜひ食べてみて欲しい。

 

 丁寧につくられたへしこのなれずしは、小浜市の地元のスーパーで販売もされていているそうだ。しかし、せっかくなら「民宿 佐助」へ行って、左彦さんの話を聞きながら食べてみるのはいかがだろうか。きっと旨みが増すから。


"お母さん、しってた⁉︎" ~小浜市在住 N.Sさん~

 「酒の肴は美味しいけど量は食べられない」と、思っていましたが……そうじゃないものがありました。それは〈なれずし〉。

 福井県小浜市の田烏地区で、今も作られている伝統食です。

 その作り方はとても手の込んだもので、まず鯖を塩漬けにします。塩漬けした鯖を再度、糠漬けし乳酸発酵させて〈へしこ〉を作ります。それを今度は米麹で発酵させたものが〈なれずし〉です。

 前段階の〈へしこ〉は魚の発酵臭がとても強く、好き嫌いのはっきり分かれる食品です。ところが、その臭いへしこをもう一度発酵させた〈なれずし〉は臭くないのです。特有のクセが、米麹で再発酵されることにより分解されてしまったのか……臭みを全く感じません。

 むしろ、へしこに詰めたご飯の甘みと旨みが加わり、みずみずしく、食べやすくなっています。私自身、今日初めて食べましたが、お箸がすすむ。すすむ。お酒があったら、エンドレスで食べ続けられそうです。これなら〈へしこ〉嫌いのうちの母にもすすめられる。酒飲みなら絶対に好きと思われる逸品でした。


「おいしい」に向き合い、伝える~小浜市在住 A.Sさん~

 山と海に囲まれた小さな土地に、人々が身を寄せながら暮らしている地域がある。福井県南部、若狭湾に面する小浜市田烏地区。田烏の人たちは、生活の多くを海とともにしてきた。

 

 鯖の養殖に取り組む、浜家直澄(たたずみ)さんもその一人だ。

これまで養殖には不向きだとされてきた鯖だが、美味しい鯖を届けたいという想いで引き受けた。毎朝鯖に「おはよう」と声をかける。初めはもともとしていた漁師の仕事のついでのつもりだったが、次第に愛情が芽生える。「育てた鯖をはじめて出荷したときはぐっときた」そうだ。

まだ始まったばかりで、試行錯誤しながら進んでいる。

 

 そしてもう一人。この地に残る味の豊かさを伝える森下佐彦(さひこ)さん。

森下さんは「へしこ」と呼ばれる鯖のぬか漬け、そしてへしこを麹漬けにした「なれずし」を作っている。へしこもなれずしも漬け込んでから完成するまで1年程度かかる。江戸時代に考案された保存方法だ。豊富に取れた鯖を冬の蛋白源にするために生まれた、と森下さんが教えてくれた。現代人にこんな知恵は思い付くだろうか。森下さんも「先人たちはすごいなあ」とうっとり話す。近年は、添加物を加えて発酵「風」のへしこを作る店もある。だけど森下さんは、昔ながらの塩と糠と唐辛子だけという製法を守りながら、使う道具類は新しいものを試してみたり、伝統に捉われずに取り組んでいる。

 

 二人とも、根っこには「食べてもらいたい」「おいしいと感じてもらいたい」という純粋な想いがあるみたいで、手塩にかけたものについて話す表情はとても朗らかだった。


時間と風土が旨みを育てる 鯖のなれずし ~小浜市在住 T.Kさん~

 移住して来て以来その旨味のとりこになり、毎年正月時期には楽しみに頂く発酵食品、鯖のなれずし。鯖の腹にたっぷり糀が詰まり、なんともいえない風味と旨味がある。

 小浜市田烏地区で昔から各家庭で当たり前に作られてきた伝承料理だ。平成19年に食の世界遺産に認定されて以来、全国的にも注目が集まっている。

 

 なれずしを作っている民宿「佐助」の森下佐彦さんは、旨さの理由を「これだけ時間がかかっているのだから」という。今回その蔵を見て工程を教えていただき、納得だ。

 鯖を塩と米糠で一年近く発酵させた「へしこ」を、翌年に塩抜きし皮をはぎ、米と糀を詰め込んでさらに発酵させて出来上がる。米も自家製のコシヒカリ、糀もその米から作る。時間をかけて熟成された逸品だ。


養殖鯖のヒーローとフィクサー ~小浜市在住 K.Sさん~

 ヒーローが作られる裏には、誰かひとりの「狂気」にも近いこだわりから、スタートすることがあることを学んだ。

 

小浜の養殖鯖は2年目を迎え、1年目は800匹、2年目は8000匹を養殖し、今後更に増加を予定している。

しかし、養殖鯖を営む浜家忠澄氏に話を聞くと、簡単に始まったものではないことを知った。

「阿納の凪な海と違って、田烏は冬しけるんや。」

この田烏の海は、小浜市の湾の中でも波が高く、ふぐ養殖で有名な阿納地区と比べても養殖に向かないらしい。

それでは、なぜ田烏の海で養殖鯖を始め、ここが選ばれたのか。

忠澄氏はいう。

「国から来とる市役所の課長さんが、『小浜の復活は鯖じゃないとあかんのです』言うんや。」

大学の調査によると、他の湾では別の養殖魚の虫がつき、鯖が育たない。養殖を行っていなかった田烏こそ一番向いていた地域だったのだ。

そこから、漁師業のついでの気持ちで始めることになったが、1年間育てた鯖を出荷するときには、愛着が湧き、胸に来るものがあったらしい。

 

小浜には、“一応”、寺もあるし、海もあるし、他の魚もいる。観光素材を探すにしても、それぞれの強みがあり、あれもこれも伝えたくなってしまうことがある。

その中で、課長は、「小浜の復活は鯖じゃないとあかんのです」と言い切った。養殖に向いていないはずの地域を利用して、養殖鯖のヒーローを作り、愛着まで湧かせてしまった。わざわざ遠方から、人を呼ぶコンテンツにも仕上げた。

 

 

養殖鯖は、一人の狂気にも似たこだわりから始まった、小浜市再生のストーリーなのだ。