ライティングツアー作品集

テーマ:小浜の水文化(2018/08/25)


INDEX

  • 水のまちの名菓「くず饅頭」の老舗を訪ねて
  • 100年の水がある小浜を訪ねて
  • 美味しい水、美味しくない水。
  • 水のまち、小浜
  • こっちの水はあまいぞ
  • 近所の友達

水のまちの名菓「くず饅頭」の老舗を訪ねて

金光 さくら(若狭町在住)

 

 天保元年創業、小浜の誇る和菓子の老舗「伊勢屋」。古くは城下町として栄えた、港にほど近い小浜市一番町商店街に伊勢屋はある。平日の昼間でさえ、「くず饅頭」を楽しみに訪れる客で店内は賑わう。触れるとひんやり冷たい、まちの名水「雲城水」には、艶やかなくず饅頭が沈む。

 

 伊勢屋のくず饅頭にレシピはない。水とくずと餡のみという、シンプルな食材で作り上げられる和菓子は、要となるくずの焚き上げと「雲城水」で味が決まる。80度の高温に焚き上げられたくずを、酒づきにひとつひとつ流しこみ、まだ湯気の上がるくずの中に小さく絞った餡をポトン、と沈める。仕上がりは感覚を頼りに、丁寧に味を決める。シンプルだからこそ、感覚にストレートな味が届くのだ。多い日だと、1日に3000個近くを売り上げる。それでも、焚き上がりの塩梅がわかる作り手は、3人。ひとりも欠けられない貴重な職人の手により、伝統は受け継がれている。

 

 伊勢屋の味の要となっている「雲城水」は今、年々水量の減少が懸念されている。滋賀県百里ヶ岳を水源に100年の時をかけて地に届くといわれる水の恵みを守り継ぎ、100年先にもこの味を届けたい。 


100年の水がある小浜を訪ねて

山内 美和子(長浜市在住)

 

 風に揺られる“くずまんじゅう”の旗。店内を覗くと水場に浸ったそれが見えた。店内に入った瞬間甘い香りに包まれ、ショーケースには看板商品の材料・葛が飾られている。

 

 『伊勢屋』のくずまんじゅうは小浜の名水『雲城水』を使用していて、季節の人気商品だ。奥には照明が落とされたイートインスペース。チリリンと鳴る風鈴が更に涼しげな雰囲気を醸し出す。ここにも注がれる水場があり、自由に持ち帰れる張り紙に水の豊かな地域だと知ることができた。

 

 5代目店主上田藤夫さんは言う。「物づくりの原点は水で、お米やお酒造りもそう」。他の地域の水は、コップの水を口あたりまでもっていけば匂いで違いが判るという。くずまんじゅうはとても繊細な和菓子で、気温や湿度にも気遣うそうだ。約80度にもなる熱々の葛と漉し餡を手作業でお猪口に詰めていく。材料は葛と水と餡子。シンプルだからこそ水の美味しさが最大の隠し味なのかもしれない。

 

 店を後に伊勢屋からすぐの小浜の船溜まりそばへ足を運んだ。『雲城水』の水汲み場は県内外からも人気の場所。維持管理をする一番町振興会の津田邦彦さん(63歳)は、「100年かかって流れてくるといわれる百里ヶ岳(ひゃくりがたけ)からの水は、貴重な市民の生活用水。当たり前にある資源を、将来のために大切にして、子孫まで枯らしてはいけない」と語ってくれた。

 

 私の中で山と海のイメージだった小浜は、もうすでに、「水のまち」。ぷるぷるもちっとしたくずまんじゅうと冷たい水を、是非またここで味わいたいと思う。


美味しい水、

美味しくない水。

阪本 紀久子(小浜市在住)

 

 

 「水に美味しいもまずいもあるのか。」と友人の外国人に言われたことがある。美味しい水とはどんな水なのか?

 

 福井県小浜市に雲城水という湧き水場がある。車を脇道に止め、何本もの容器を持参し、湧き水を注ぎ入れる女性がいる。『この水を求めて県外から訪れる人もいるんです。』と話すのは、この場を管理している小浜市一番町振興会、会長津田さんと宇田川さん。

 

 ほんの数年前までどこからこの水が流れてきているのか誰も知らなかったという。始まりはその美味しさに気付いた酒造、豆腐屋、そば屋だった。その後いつ知れず、今では市民までもが水を求めて列をなす。

 

 本格的な調査の結果、その水は滋賀県百里ヶ岳から流れてきていた。山のミネラルを豊富に含み、栄養価が高い。海につながる出口にはその栄養価を求めて小魚が寄っている。

『だから小浜は魚も美味しいんです。』と津田さんは話す。

 

 口に入れると、どことなく甘く感じる。湧き出る自然の冷たさが堪らない。うん、美味しい水だ。今度友人を連れて来よう。 


水のまち、小浜

田中 宏幸 (大阪市在住)

 

 おだやかな海と、四季を通して新鮮で豊富な海の幸並ぶ市場。海のまちと知られる小浜は、実は豊かな湧き水に支えられたまちだった。

  

雲城水と呼ばれる湧き水がある。驚くのはその湧き出る場所で、海との距離はわずか5m。手が届くような距離に漁船が停泊している。誰でも自由に水を汲むことができ、訪れる人が止まない。水を手ですくって、口に含む。すっきり、やわらかく、あまい。市内外はもちろん、県外からもこの水を求めて、和菓子、そば打ちといった料理人が訪れる。

  

『小浜の水道水は、すべて地下水なんです』雲上水を維持管理する一番町振興会会長津田さんに聞いた。山に浸み込み、長い年月をかけてミネラルを豊富に含んだ水。約40箇所に自噴し、人の手を最小限に加えられて、各家庭に供給されている。海の中に湧き出た水は、良質なプランクトンを育み、豊かな海をつくる。

  

『約100年かけて湧き出ているという話も聞いたことがあります』前会長宇田川さんは言う。山形出身の宇田川さんは、約40年小浜に住み、この雲城水を守ってきた。毎年723日に行われる水祭りでは、かき氷や流しそうめんを振る舞う。

 

水のまち、小浜。湧き水によって、食はもちろん、暮らしも支えられていたのだった。


こっちの水はあまいぞ

矢島 絢子(長浜市在住)

 

 

 小浜の港を目の前にした場所に、ふたつの湧き水がある。ひとつが「津島の名水」で、ここから200mほど離れたところに「雲城水」がある。どちらにも水汲み場があって、空のペットボトルをもった人がずっと途切れない。 

 

 どちらも滋賀との県境の山に源があり、100年かかって小浜にたどりつくのだという。炭酸の含有具合の違いで、津島の水は酒づくりなどに、雲城水は料理やそのまま飲むのに向いている。

 

 1年を通じて水温は15度程度。水に手を入れるとものすごく冷たく感じるのに、口に含むと冷やかさはやわらぎ、やさしく感じる。小浜の人はそれを「水があまい」と表現する。

 

 「僕らも不思議なんやわ。こんな海と近い場所やのに、海水と混ざりもせん湧き水があるなんて」と、津田邦彦さんと宇田川省二さんは言う。ふたりは雲城水のある一番町でつくる振興会のメンバーとして、水汲み場の清掃や湧水の利活用に取り組んでいる。

 「小浜市内には、ほかにも自噴する水が40か所近くあってな。水道水もみな地下水で、湧き水の存在は当たり前すぎて誰もなんも思ってこなかった。その貴重さを自覚して守っていかないと」

 

 雲城水の湧出量は、融雪のための利用などの影響で減ってきている。水が枯れてしまわないように地域や行政が一体となって取り組む必要があると、ふたりは強く訴える。

 ごくごくと水を飲んで顔をあげると、港に停泊する船がずらりと並んでいる。小浜は海のまちで、そして湧き出でる水にも豊かなまちなのだ。歩いてみて、わかることがある。


近所の友達

山田 真名美(加賀市在住)

 

 

 海の近くに住む人は、陽気な人が多い気がする。サービス精神が旺盛で、いつもちょっとした冗談を交えて返してくれる。今回のおふたりも、期待を裏切らない“海の人”だった。彼らが暮らすのは福井県の南に位置する小浜市。小浜湾を囲うように広がるこの町は、豊かな地下水に恵まれ、市内におよそ40箇所もの湧き水スポットが存在する。彼らは、その中のひとつである雲城水を守る一番町振興会の宇田川さんと津田さんだ。

 

 おふたりはお家が向かい同士で、顔を合わせない日はないという。見ているこっちも微笑ましくなるほど息がぴったり合っているのは、それだけ長い時間を共有してきたからだろうか。雲城水では毎年7月23日に水への感謝を伝える水祭りがあり、湧き水から作ったカキ氷を子どもたちに振舞っているそう。

 

 最後にツーショットを頼むと「本当は僕らあんまり仲良くないんだよ〜」とニンマリしながら応えてくれた。雲城水は誰でも飲むことができる。小浜に訪れた際は、彼らの活動に想いを馳せながら、ぐびっと飲んでみてほしい。